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2011-09-25

犬塚勉展@日本橋高島屋

会期終了ぎりぎりの投稿になってしまたが……。

先週の休日に、日本橋高島屋で開催中の絵画展に行ってきた。

Inu_00



犬塚勉展 - 純粋なる静寂

 9月7日~9月26日
 日本橋高島屋  8階ホール

多摩に住み、美術教師をしながら、多摩や山の風景を描き続け、38歳で夭逝した画家 犬塚勉没後20年の2009年にNHKの日曜美術館で紹介されると、多くの感動の声が寄せられて注目を集めました。山に登り、自然と一体になって描いた作品は、スーパーリアリズムともいえる精緻な筆遣い。あるがままの自然に魅せられ、谷川岳で遭難して幕を閉じた彼の人生は、すべて自然を描くことに捧げられたといっても過言ではありません。本展では、遺された絵画とデッサンなど110余点を一堂に展開。これまで広く知ら
れることのなかった犬塚勉の画業をご紹介いたします。
(犬塚勉展パンフレットより)

私が犬塚勉のことを知ったのは、ごく最近。
2009年にNHK教育『日曜美術館』で紹介されていたのを偶然に見て、その作品の精緻さと深い精神性に圧倒された。
2009年7月5日放送 『私は自然になりたい』 )


『日曜美術館』は、昔からよく見ている番組だが、毎週かならず、というわけではない。
興味あるテーマの時には事前にチェックしておいてチャンネルを合わせるが、そうでないときは、日曜の朝食後にザッピング中に何かひっかかれば見る。

その時は、”ザッピングしてひっかかかった”のほうで、「写真みたいだけど、写真より密度が濃い…。単なる写実を突き抜けてる感じだ。」と、彼が描いた草木や岩の絵に目が釘付けになったのだ。
当時は未だテレビを買い換える前で、画質は良くなかったはずなのだが、それでも作品の持つ静かな力は十分に伝わったのだと思う。

そして、途中で流れた犬塚の制作ノートを朗読する声に聞き覚えがあり、「あっ、この声は…!」と思わずテレビに近寄ってしまったのである。
俳優の大森南朋さんの声だった。
2009年7月初旬といえば、私が映画『ハゲタカ』に初見から強烈なハマり方をして間もない頃。
寝ても醒めても『ハゲタカ』と主人公・鷲津政彦のことで頭が一杯という異常な状態であった。
なので、『ハゲタカ』の主人公・鷲津政彦を演じた大森南朋さんの声に怖ろしく敏感に反応する耳の持ち主になっていたのだ。
どんなに鷲津に夢中になっても、演じる大森さんへの興味は「いい仕事をする役者さん」として関心があるのみで、ご本人への興味は持っていないのだが、声にだけは今もって敏感に反応する。(笑)

とまあ、やや邪な動機も加わって、熱心にこの回を観て、さらに翌週の再放送も観たくらいに、犬塚の絵iに興味を感じて、是非とも本物を間近でじっくりと観たいと思った。
その後、本物を観る機会はなかなか得られなかったのだが、今月、上記展覧会があると知り、ドキドキしながら高島屋を訪れたのである。


休日朝のデパートは、まだ人影まばらで、展覧会開場前の入場券売り場にも二人ほどお客さんがいたたけ。
空いているらしい…と思って入場したら、なんと、各作品の前に1~3人程度がいる。
皆さん、お早い。


展覧会の内容は、充実したものであった。
素描を含む100点余を、大きく2部に分けてある。
第1部「画家としての変遷」と第2部「自然を描く」では、同じ人の作品かと思うほどに全く違っていたので、驚いた。


第1部では、暗い色調で描かれたナイーヴな印象の自画像から出発して、彼が描きたい世界、そのための手法を模索していく過程が手に取るように感じられた。
スペイン旅行で刺激を受けて、鮮やかな色を用いた幻想的な作品を描いていた時期もあり、そのスペイン旅行で日本の良さを描きたいと思うようにもなって、地元・多摩の風景を青いトーンで描いたり、なんと(?)仏画も描いたり、様々なことにチャレンジしていたようだ。
何をどう表現したいのか、若い画家が自分自身に問いかけていた時期。
それなりに魅力的な作品だとは思ったが、やはり第2部の「これぞ犬塚勉の世界」という精緻で静謐、そして画家の眼差しを感じ取れるような力を放つ作品たちとは、輝きの度合いが全く違う。
しかし、テレビで紹介された犬塚の作品世界が生まれるまでの苦闘の道のりを辿れたのは、第二部の彼の作品に近づくうえで、とてもプラスになったと思う。


さて、いよいよ第2部。
超写実的な超絶技巧で、自然を描いた作品群。
犬塚の転機となった1984年の作品を目にして、「えっ写真じゃないの!?」という驚きの声を漏らしておられる方が多数。

Inu_01

        夏の終わり (1984年)

Inu02

        山頂A (1984年)


ここからは、一枚ごとに、精緻な筆さばきと絶妙な画面構成に驚嘆して息を吸い、ついで知らないうちに息を止めて近寄ったり離れたりして、鑑賞に時間と集中力を要するようになっていった。
他の鑑賞者の方々も同様らしく、だんだん作品の前にいる人数が増えていった。
犬塚作品の本当の凄みと魅力は、本物を見なければわからないのだと、改めて実感した。
それから、今更知ったのだが(なにせ予習無しで行ったので…)、犬塚の画のクリアな輝きや、面相筆での細密な表現の鮮やかさは、アクリルだからなのか、と初めて知った。
前述の日曜美術館で言及していたのだろうと思うが、全く忘れていた。
ずさんな鑑賞者である。
やはり、アート鑑賞万年初心者だ。


小さな草の一本ずつの微妙なグラデーション、光と影のコントラスト。
濃密な草の匂い、古木のざらついた肌の質感。
ごつごつした岩石の存在感。
まるで自分がそこにいるかのように、犬塚の視点と、彼が感じていたであろう、そこにあるすべてのものに宿る生命の輝きを受け止める感覚を追体験している自分に気づく喜び。
こういう感覚は、やはり本物をじっくりと鑑賞できてこそだ。

超写実的で細密な筆遣いはそのままに、どんどん描きたい自然に身も心も肉迫していき、想いが収斂され、純化していったのがよく分る。
絶筆となった≪暗く深き渓谷の入り口 2≫は、まさに、展覧会のサブタイトルにあるとおり純粋なる静寂。

Inu04

        暗く深き渓谷の入口 2 (1988年)



会場の出口近くに映像コーナーがあり、犬塚の足跡を10分弱に簡潔にまとめたビデオが流れていて、これを観てから、再度、この絶筆作品の前に立った。
怖いくらいに静かで暗い渓谷の入り口に、引き込まれそうになった。


「もう一度、水を見てくる。」

犬塚は、そう言って谷川岳に出かけて、遭難し、不帰の人となってしまった。

若くして亡くなった方の短い画業をたどる展覧会というのは、どうしても画家が芸術と濃密に激しく向き合って、全速力で生き抜いた証を目の当たりにするような気持ちになりながら観てしまうし、絶筆を前すると胸がつまる。

この作品が、犬塚の画業第2期の到達点、いや、あるいは次の段階への転換点であったのかもしれない。
ここから更に、次の展開があったのではないかと思えた。
この先を観てみたかったと思う。
享年38歳。
若すぎる。


良い展覧会だった。
犬塚勉という画家を知ることが出来て、本当に良かった。




この展覧会は、以下のとおり巡回します。


京都高島屋
2012年1月6日(金)〜23日(月)


東御市梅野記念絵画館
2012年4月14日(土)〜6月3日(日)

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コメント

こんにちは 美冬さん


かなりタイミングのズレたコメントですが先週末に私も観に行きました。


会期終了間近だからか結構な人混みでデパートの展覧会でこれほどの人出は久しぶりです。


初期と後期に好みが別れるようですが、私は画風が少しずつ変わっていくように感じる前期の作品が好きですね。


ポスターにもなっている「ひぐらしの鳴く」の前からはしばらく動けず、後半を見終わった後にもう一度引き返してしまいました。


で、余りの人気に図録が売り切れてしまっていて増刷後に自宅に送られてくるのが約三週間待ち(予約番号139番です)でした。

むぎこがしさん


コメントありがとうございます~shine

>>私は画風が少しずつ変わっていくように感じる前期の作品が好きですね。


図録が売り切れるほどとは、かなりの人気ですね。
作品のほとんどは夫人が所蔵しておられるということで、作品自体が市場に出ていないそうですし、恐らく、2年前に日曜美術館で話題になるまでは、知る人ぞ知る存在だったのかと思います。
今だから尚更に、あの静謐さと純粋さが心の深部に響くのでしょう。
犬塚さんの画業の、あの先を観たかったと思います。

ものすごい今更のコメントですみません。
私も日曜美術館を見ていて、大森さんの声に反応して、
でも、犬塚さん自身の絵にすごく興味がわいて・・・

いたのですが、見にいくのを忘れてました。
あー!失敗した!

これから先、どこかで見ることが出来ますようにと祈ります。

なつみかんさん

いらっしゃいませ♪
コメントありがとうございます。


なつみかんさんも『日曜美術館』の大森南朋さんの声に釣られたおひとりでしたか!(笑)
犬塚勉さんの作品は、やはり本物を観ると、想像以上に強くひきつけられました。
技術的な凄さに驚きますし、深い精神性も感じられて画の前から動けなくなる感じでした。
細密な風景画に行きつくまでの変遷も面白い。
私のような素人が観ても色々と感じるものがありましたので、なつみかんさんのようなプロのクリエイターの方のご感想も知りたかったです…。
次の機会が近いうちにあるといいですよね。
私も、また犬塚作品をじっくりと観たいと思っています。
今回の展覧会が相当な人気だったようですから、そう遠くない将来に都内での展覧会が企画されるのではないと期待してます。

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