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2011-10-17

映画『ツレがうつになりまして。』

映画『ツレがうつになりまして。』を観て来た。

Tsure1

公式サイト 

ストーリー:仕事をバリバリこなすサラリーマンの夫、通称ツレ(堺雅人)が、ある日突然、心因性うつ病だと診断される。結婚5年目でありながら、ツレの変化にまったく気付かなかった妻・晴子(宮崎あおい)は、妻としての自分を反省する一方、うつ病の原因が会社にあったことからツレに退職を迫る。会社を辞めたツレは徐々に体調を回復させていくが……。
(シネマ・トゥデイ より)


超モノグサの私としては、かなり気合を入れて地元シネコンの席を一番乗りでweb予約し、公開初日(10月8日)の初回を観たのだが、感想をアップするまで時間がかかってしまった。
先月末から立て続けに、贔屓の役者さんがお仕事で輝く姿が観られる機会が続いているので、気分が上がりすぎてアウトプットしきれないという、贅沢なナチュラルハイ状態なのだ。(キャパ小さすぎ…)

愚痴(?)は置いといて、本題の映画の感想を。


うつ病という、現代人には、いつ自分や近しい人が患うかもしれない病が題材だ。
もうひとつのテーマは、夫婦の愛情。
生真面目で、テキパキと家庭を物心両面でけん引していた夫のうつ病によって、苦しい道を歩むことになる二人であるが、夫の心の再生の過程と、夫に守られておっとり生活していた売れない漫画家の妻の成長があって、夫婦の関係がより強く深まっていく。
これを、原作者の手による可愛らしいイラストや漫画を交えながら、温かい雰囲気で描いている。


詳細にストーリーを追っての感想ではないが、かなりネタバレを含むので、念のため折りたたんでおきます。

けっこうな長文で、くどいですが、宜しければ、どうぞ…

同タイトルのエッセイコミックが原作。
私は今のところ原作は、書店で少し立ち読みしただけだけれど、映画を観て、読んでみたいという気持ちになっている。
自分の近しい人に、うつ病になった人はいないのだが、勤務先では何人かいる。(長期休職の後、現在は全員が無事復帰している。)
うつ病について、正直、身近な病気として真剣に考えたことはなかったのだが、本作を観て他人事ではないと思ったし、自分がうつ病患者の方に負荷をかけない接し方を知らずにいたことにも反省した。


私が「うつ病」という言葉を知ったのは、小学生から中学生くらいのころによく読んでいた北杜夫さんの「どくとるマンボウ」シリーズでのこと。
北杜夫さんは、ご自身の躁鬱症状をエッセイの題材として、深刻さを見せずに軽妙洒脱に書いておられるので、「いくらなんでも、そんなに精神状態が上下するなんてありえないでしょ」とか、「そんなに何も出来なくなるなんて」と少し信じられないような気持ちもあった。
無知とは罪深いものである。
この映画を観て、うつ病のことや、患者とその家族の辛さや葛藤が、ごくごくわずかでもわかった気がした。
そういう意味でも、観てよかったと思っている。



と書くと、暗くて重そう…という印象を与えてしまうかもしれないが、とても優しくて温かい作品だ。
あまり大きな起伏はなく、淡々といくつものエピソードを積み重ねるように描かれている。
ごく普通の若夫婦の日常を描いているわけだが、一人は病気を長く患っている、ということで。
つまり、病の名前や症状は色々でも、そういう状況は、どんな家族にもありえることなわけだ。
そういう感じで、穏やかに二人の心の軌跡や、周囲の人々の反応などが綴られる。
辛気臭くならず、説教くさいところも、「前向きに行こうぜ!」と暑苦しく押し付けてくるところもない。
そっと、適度な距離から若夫婦を見守っているような視点だ。
うん、これはこの夫婦の可愛いペットのイグアナのイグ君の視点かも…。
このイグ君は、堺さんと宮崎さんが、その「演技力」にすっかりほれ込んだ名優ぶりを発揮していた。
「彼」が、じっと瞑想するような表情(?)でクラシック音楽を聞いたり、気遣わしげに二人を見たりしているようなシーンが、ナ・イ・スheart01
そして、ツレとハルがが、イグや後から家族に加わる亀のチビに癒されている表情は、お芝居じゃない感じで、これは観ているほうが癒されたかも。(笑)


うつ病になった夫と向き合って、二人三脚で病を乗り越えた漫画家の女性が主人公…というと、自分と共通点が少なすぎて、共感したり感情移入しづらそうという先入観もあったのだが、そんなことはなく、普遍的な夫婦愛の話として感情移入できた。

映画のキャッチコピーにもある「がんばらないぞ。」という姿勢で、主人公のハルさんは、うつ病になった夫ツレを見守り、支える。

ハルさんの「自分はネガティヴで…」という独白があるが、確かに、諦めが早いし、ガンガン前に行くタイプではないけれど決して暗くはない。
あっけらかんとして、いい感じに鈍感で、楽観的なところが彼女の良さでもあり、それがツレさんの心を憂鬱の波に飲み込まれっぱなしにせず、解放する要素のひとつになっている気がする。
しかし、彼女がひとりで背負い込むのではない。
逆に、ツレやペットのイグ君にも支えられて漫画やイラストの仕事をしていくし、両親や担当編集者から差し伸べられた手を自然に掴んで助力も得て、二人で少しずつ浮上していくのだ。

「ハルさんは好きな漫画だけ描いていればいいよ。」と言って貰って結婚して、趣味の延長みたいな気持ちで漫画を描き、家事も夫のほうが得意だから、最小限だけしかしなくていいし…という生活を送っていたハルさん。
そんなふうに、経済的にも精神的にも、ずっと夫・ツレさんの庇護下にあったハルさんは、ツレの病がきっかけで、プロの漫画家としても成長するし、人として強くもなっていくのだ。

しかし、ハルさんは、よく出来たパートーナーである時ばかりではない。
彼女は、自分の気持ちをストレートに出してしまうことがある。
そう、彼女だって、疲れたりイライラしたりもする。

納豆に多く含まれるセロトニンがうつ病に良いと知り、食卓に出すのだが、実は自分は納豆ギライ。
納豆大好きなのに妻に気を使って食べていなかったツレが嬉々として納豆をかき混ぜていると、ハルさんは鼻をつまんで「あまりかき回さないでくれる?」なんてハッキリ言っちゃうのだ。
ツレさんに、腫れ物に触るように接しないで、ふつうに向き合っている。
そして、こういうところが、夫婦の生活感のリアリティがある。


ツレさんの体調が随分と良くなってきた頃に、ハルさんが締め切り直前でイライラしてツレを怒鳴りつけた結果、ツレは「自分なんていなくていいんだ。」と孤独に陥り、ショッキングな出来事が起きてしまう。
これを避けずに描いているのも良かったと思う。
実は、私は、あの場面までは、「堺さんの演技でツレの苦しさは出ているが、全体的に楽観的すぎやしないか?」と思わないでもなかった。
しかし、あのお風呂場のシーンで、この病の底知れぬ怖さを突きつけられて、泣きそうになってしまった。
寸止めしましたが。
ええ、周囲は嗚咽や鼻をグシグシさせる音で一杯…。
それでも涙をこらえる強情な私であった。(笑)


5年前に結婚式を挙げた教会の「同窓会」での二人のスピーチと、その際に微笑みあう姿も、じいんとした。
やはり、堺雅人さんと宮崎あおいさんの、信頼しあっている目の表情が素晴らしい!と思ったシーンだった。
ここで、また涙腺決壊寸前。やばかった。

ラスト近くで、ちょっとファンタジックな描写があり、これは個人的には「うーん?」な点もあったが、ま、作品やハルさんのキャラにはあっていたし、悪くない…とするか。(何様)



かなりシリアスな場面もあり、辛さに感情移入したり、共感して涙が出そうになった場面がいくつもあったのだが(また涙を我慢していたのだ…)、決して重苦しくならず、軽々しくもならず、良い匙加減だったと思う。
「がんばらないぞ」という言葉がキーワードになるのたけれど、そのとおりに、肩の力を入れすぎず、無理せずに、そっと手を取り合って少しずつ進む若い夫婦の姿がとても愛おしかった。
これは、キャスティングの妙だろう。
夫婦役のコンビネーションの良さは、『篤姫』のときよりも良い感じだったかも。
(まあ、将軍と御台所は、現代の夫婦とは立場とか役割が違うし、そもそも一緒にいる時間が短いからね。)


と、全体的な印象を書いたが、キャストやセットについても。

主演のお二人の見事さは、いうまでもない。
宮崎あおいさんのハルさんは、原作キャラと同じくお団子ヘアで、衣装も可愛らしく、見ているだけでほのぼのする。
ハルさんが、おおらかで可愛いだけでなく、地に足がついていて母性も感じられる人物造形は、さすが宮崎さんだ。

堺雅人さんのツレは、この役はやはりこの方でないと!というハマリぶり。
憂鬱の波に飲み込まれてしまったときの落ち込みようや、逆に気分が晴れているときの、ややうわずった明るさを、とてもデリケートに演じていらっしゃる。
体重をかなり落とされたそうで、もともと華奢な首筋や肩が痛々しいくらいの細さになって、もう折れそう。
細いうなじが儚げで、観ていて本当に辛かった。
それにしても、俳優さんて大変ね…、と減量できない私は、ひたすら感心。(感心してるだけじゃ、だめだろう)


脇役がこれまた絶妙。
ハルさんの両親には、大杉漣さんと余貴美子さんの、盤石コンビ。
離れたところから、心配しつつも温かく娘夫婦を見守り続ける。
特にお母さんは、決して過干渉せず、大人同士として信頼して二人を見守るところが素晴らしい。
心配して色々と口出ししたり、しょっちゅう押し掛けそうなものだが、決してそうはしない。
そういう素敵な両親を、このお二人が演じるから、とっても安心感があった。
ツレさんのデリカシーの無い兄には、津田寛治さん。
これまた絶妙。
本人は全く悪気なく、良かれと思って弟を叱咤激励するシーンで、ツレさんがどんどん縮んでいくように見えるんだなぁ。
堺さんと津田さんの顔合わせ、また観たい。
(そういえば、『出雲の阿国』では、津田さんが堺さんを足蹴にしてましたなあ。二人とも性格悪くて上昇志向バリバリなだめんずの役で、これも良かった…。って、話それすぎ…笑)

そして、忘れちゃならないのが、うつ病仲間?役の吹越満さん。
彼の独特の存在感、哀愁…やっぱり良いです。


そして、もう一点、作品の世界観に大きなウエイトを占めていたのが、夫婦が暮らす家のセット。
昭和っぽい日本家屋で、和洋折衷の生活空間に自然な感じの庭。
イマドキのモダンな居住空間ではなく、二人の生活感がしっかりと滲んでいる家で、部屋と部屋が隔絶していない日本家屋だから、あの物語が出来ていたと思う。

監督のこだわりが詰まったセットだそうで、なるほど~と納得。
ここが主な舞台であったところが、辛い要素を多く含む話を温かく愛らしい印象にしていたと思う。
ああいう家に住みたいなあ。


原作の絵柄のほっこりした空気と、辛さをくるむ柔らかいユーモアが、ちゃんと盛り込まれていて、愛らしくて、くすっと笑ったり、ホロリとしたりする心温まる作品に仕上がっていた。
家族の絆について改めて考えるきっかけとなる作品でもあり、老若男女にオススメできる作品だと思う。

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