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2012-01-16

映画『ブリューゲルの動く絵』

2012年になって、もう半月なのに……。
2011年最後に鑑賞した映画の感想。

ま、今年はこんな感じで、時期を逸しても、自分の物忘れの酷さを補うブログでもあることを言い訳に(笑)、いろいろと感想を書いていきたい思っている。
いちおう、毎年そう思ってるんだけどねえ……sweat02




ブリューゲルの動く絵
(原題:The mill and the cross)
公式サイト



私が鑑賞した昨年末は、都内では渋谷のユーロスペースのみで上映していた。(現在は吉祥寺でも上映中…のはず。詳しくは上記公式こサイトで。)
この映画館の立地環境のハードルが女性にとっては高く思われて(渋谷駅周辺をご存知の方にはピンと来るでしょう。)躊躇したが、映画館で観ないと絶対に作品の魅力や意味がわからない作品だと思われるので、意を決して行って来た。
まあ、明るいうちならば、「意を決する」ほどのことはないかな。(苦笑)


話がそれるが、渋谷で映画を見るのが、2009年の7月に、オシャレな映画館・ヒューマントラストシネマ渋谷で『ハゲタカ』の何回目か(←切記録していないので、記憶がおぼろ…)を2回連続で観て以来という、超久しぶりぐあい。
あの時は、かなり小さいスクリーンでの上映だったので、映画を観た(というか鷲津を観た?)という満足感かイマイチ得られずに、ふらふらと2回目も観てしまったという中毒症状が出ていたのである。
あの頃はまだ、何回か観て気が済めば『ハゲタカ』中毒が治まると思っていたんだよなぁ。
…なんてことを思いつつ、ゆるゆると坂を上って、無事にユーロスペースに到着。

本編上映前に『東京プレイボーイクラブ』の予告編が流れた。
大森さんも光石さんも大活躍だなー。
そしてその後に、『Deep Seijun』と題する鈴木清順監督特集の映像が流れ、麿赤兒さんの怪しい表情のどアップが。
「ううーむ、息子さん、色々な意味で(意味深?)麿入ってきたなー。早く『ハゲタカ 2』が実現してくれないと鷲津の(略)」という感慨が押し寄せた。
そんな邪念にまみれでいると、いよいよ本編スタート。
不思議な世界にあっと言う間に入り込んだ。


ストーリー(あらすじ)

「バベルの塔」「雪中の狩人」などで知られる16世紀フランドル絵画の巨匠ピーテル・ブリューゲルの作品の中に入り込み、絵画の世界を旅するかのような感覚を味わえる体感型アートムービー。
ルトガー・ハウアー扮するブリューゲルを案内役に、ブリューゲルの絵画「十字架を担うキリスト」に描かれている人々の日常生活をなぞりながら、絵画に秘められた意味を解き明かしていく。監督は「バスキア」の原案・脚本を手がけ、アート界でも活躍するレフ・マイェフスキ。
実写映像と絵画を融合させてブリューゲルの絵画世界を再現する表現手法が話題となり、ルーブル美術館でも特別上映された。
 (映画.com より)

   



はっきりとしたストーリーは無いようなイメージ中心の作品だと思うが、念のため折りたたみます。
私の文章力では表現しきれないので、かなりふんわりした感想でございます。

私は、ピーテル・ブリューゲル(父)の作品というと、『雪中の狩人』や『農民の婚礼』がまず浮かび、ついで『バベルの塔』という感じかな。
衝撃度の強さからいうと、中学生のころに図書館の画集で見た『足なえ達』が一番だったけど…。
つまり、ぱっと思い浮かべられるのは有名どころくらい。
その程度。
ブリューゲルの作品は、細部まで寓意に満ちいてるが、決して説教くさくなく、上から目線ではないところが魅力的。
謎めいていて物語を秘めているようだが、作り事だけで構成されているのではなく、当時の庶民の息吹が感じられる。
そんな独特の引力があって、好きだけど…大好きというほどでもないかしらん。
実物は版画しか観たことがないし。
それに、16世紀フランドルについての知識も無い。

そんなわけで、この映画を観ようと思い立ったときに、それなりに勉強しておいたほうがいいのでは…と思ったのだが、結局なにも予習せずに出かけてしまった。
モノグサなのだ。
だけど、結構これでいい出会いかあるのよ。
ハゲタカもそうだったしね。(開き直り。)

その開き直りか正しいのかどうかは置いといて、予備知識が足りなくても楽しめたし、深く考えさせれる作品だったことは確かだ。
もちろん、知識があれば、もっと深く理解できるだろうけれど、西洋絵画の鑑賞をする機会が度々ある人が備えている程度の、キリスト教に関する画題やモチーフについての最低限の知識があれば、問題ないと思う。
或いは、『聖☆おにいさん』の読者も、たぶん大丈夫。(本当ですよ。)



冒頭の30分くらいは、淡々と16世紀フランドルの農民たちの生活が描かれていく。
この間、全く台詞が無い。
自然が奏でる音や、人々や家畜が立てる音が豊かに映画の中の世界を彩る。
静かな夜明け、徐々に目覚めていく村、風車が回る音、石臼のきしむような音、子どもたちの歓声、木が切り倒される音…。
16世紀の、森林に囲まれた農村での暮らしは、さぞや清らかで静かであろう…などと想像していたが、そうでもなかった。
人の営みには音が伴うという当たり前のことに、改めて気づかされた。
命の音に満ちた映像、とでも言ったらいいかもしれない。

そして、細部までこだわって当時の人々の生活が再現されているというセットや衣装や小道具が創り上げる世界の現実味と、実写と絵画が融合した美しい背景によって、映画の中に引き込まれる。

想像以上に木靴で歩く音は響くとか、風車小屋の中はかなりうるさいとか、家畜と共同生活(?)の家もあるのかとか、めちゃめちゃ寒そうだとか、パンはあんな風に切っていたのか……というような、些細なことに耳を傾け目を向けているうちに、すっかりブリューゲルが生きて描いた時代のフランドルに入り込んでしまった。

キャストも豪華でインパクトがあった。
特に、コワモテのイメージがあるルトガー・ハウアーが、当時の衣装もあいまって、独特の深遠な世界を生み出していく寡黙な画家役にはまっていた。



日々の糧に感謝して過ぎる慎ましく平穏な暮らし。
しかし、理不尽な迫害と死が農民たちを脅かす。
やや残酷な暴力描写があるが、それすら淡々と諦観をもって描かれていて、かえって命や肉体の儚さや日常の尊さが、鋭く胸に刺さってくる。
スペイン兵がまとう軍服の鮮やかな赤、翻る旗、騎馬の隊列が息を呑むほどに美しく、それが彼らの残虐行為を際立たせる。

人々は、スペイン兵たちに怒りをあらわにすることもなく、当事者はただ嘆き悲しみ、他人は無関心を装うだけ。
そうして、やり過ごさなければ生きてゆけなかった、ということだろう。

このありさまを(絵画で)表現できるか?
美術コレクターである友人の問いに、画家ブリューゲルは、ある絵の構想を示すことによって答えていく。
ブリューゲルが語る構想の中で、彼らが生きる16世紀のアントワープに、十字架を担ってゴルゴダの丘へ向かう救世主と嘆き悲しむ聖母マリアが現れる。
ブリューゲルが『十字架を担うキリスト』に込めた思い、描きこまれた人々やモチーフの意味、構図に忍ばされた計算が、ブリューゲル自身によって語られ、「動く絵」が出現する。
その映像は、圧巻の一言。


映画を見ている私は、時には絵に入り込んで農民達の暮らしをのぞいている気持ちになり、時には高みにある巨大な風車小屋から人間の愚かな振る舞いと強かで美しい命の営みを見守っている気分にもなった。

誰にでも等しく訪れる死も、その訪れ方は決して平等ではない。
だから、今日という日を生きられたことに感謝し、翌朝また目覚められることを祈る。
それは、洋の東西も古今も、同じなのではないか。
今の世をブリューゲルが見たら、どんな絵を描くであろうか。

色々と「考える」と同時に、多くのことを「感じる」ことができる映画だと思う。


*** おまけ ***


その後、年が明けてから、銀座で映画の関連展示があると知り、近くに出かけた際に立ち寄ってみた。

ビル3階のこぢんまりとしたギャラリーに、ブリューゲル作品の精巧に印刷された原寸大カラープリントが3枚展示されている他、フランスで出版されたブリューゲルの絵を題材にした絵本(←さすか、おフランスですな。)や、日本語の解説本も閲覧できるようにしてあった。


本物を観なくちゃ無意味だろうと仰る、厳しくかつ恵まれた美術ファンも少なくないだろう。
でも、平凡なOLで主婦の私は、すぐにウィーンに行くことが叶いませんので、そこはよしなに。(爆)

『農民の踊り』、『農民の婚礼』のカラープリントを眺めたあと、映画のテーマである『十字架を担うキリスト』をじっくりと観て、一人ひとりの服装などを映画の記憶と照合してみた。
…あまりに人物が多くて疲れたのと、自分の記憶がおぼろになっていて、途中で断念。(笑)
原寸大プリントをじっくりと観て、ブリューゲルの意図(について、映画で示されていた解釈を思い出し、画家ブリューゲルの真意はどこにあったのか、あれこれ考えてみた。
が、私には難しすぎるテーマで、結局、椅子に腰掛けて、ぼうっと巨大なカラープリントを眺めていただけでであった。
とりあえず、思索にふける少々の時間と機会を与えてくれたブリューゲルに感謝。


AからZで紐解くブリューゲルの人生 
  会場: メゾン・デ・ミュゼ・ドゥ・フランセ 3階 ギャラリー
  会期: 2012年1月17日 (←すみません、明日までです…)
   

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